お茶の話、あれこれ|鉄観音と黄金桂を淹れる
今回は遊茶の中国茶講座講師を務める講師AとBの二人が、茶器を使い分けて、「鉄観音」と「黄金桂」を淹れてみます。
A:この2つのお茶、どちらも福建省南部の安渓県を代表する烏龍茶で、それぞれにかなりキャラの立つ香味を持っていますよね。ちなみに、鉄観音は仕上げの焙煎度合いに幅があって、緑っぽいものからかなり濃い茶色のものまであるのに対し、黄金桂で茶色系って見たことない。
B:そうそう。黄金桂は黄旦いう茶樹品種から製茶されていて、その品種の特徴を存分に活かすのに、強めの焙煎はそぐわないでしょうね。
A:そんな茶葉の特徴を最大限に引き出して、しかもヨシヨシって思える香味に抽出するのに、どの茶器を使ってどんなふうに淹れればいいのかって常に楽しい悩み。
B:しかも同じ銘柄の茶葉でも、毎年、香味の特徴が微妙に、時にはかなり異なるので、昨年と今年で同じ淹れ方で100%OKってことは、むしろ滅多にないですもんね。
A:そこで「鉄観音」と「黄金桂」、遊茶始まって以来の常連茶葉、私も本当に長いお付き合いで、少々慣れ合い感もあるこの2種、だからこそ襟を正してド~ンと淹れてみようかなと。
B:いいですね。今、遊茶には「鉄観音」が4種ありますけれど、私の大好きな「安渓祥華鉄観音」にしましょう。“中焙火”と言われる程よい焙煎で、香ばしさと鉄観音品種ならではのしっかりした花香を併せ持つ、いかにも「らしい」香味に仕上がってる。
A:中国茶を丁寧に淹れる、となれば、磁器蓋碗か紫砂茶壷ですよね。この2種の茶器で淹れて、抽出された茶水の特徴をしかと比べましょう。実験室ではないけれど、湯温、茶葉対お湯の比率、抽出時間を同じすれば、ある程度、客観的な観察ができますよね。
磁器蓋碗と紫砂茶壷、その他中国茶器の詳しい説明はこちら。
https://youcha.shop/pages/knowledge
中国茶事始め、中国茶器の名称と使い方 をご覧くださいね。
で、実際に検証に使用する茶器たちがこちら。
茶壷は水平壷と言って基本的な形の1つ。かなり小さい印象を受けますが、1人~2人用に適したサイズ。蓋碗は身の縁の厚さや反り具合が程よく、初めての方でも持ちやすく使いやすいものです。
B:具体的な条件はこちら。
使用する水:浄水器を通した東京都の水道水。
茶葉の量と湯量:茶葉1に対して湯量20の比率。茶器の容量に合わせて茶葉量を決定。
湯温:沸騰したて。
具体的な淹れ方手順は後で紹介するとして、
さてさて、抽出された茶水の色、味、香の特徴を簡単にまとめて一覧にしてみたのがこちら。
<安渓祥華鉄観音>
<黄金桂>
A:ものすごくざっくりした言い方になりますけど、紫砂茶壷で淹れると厚みのある香味、磁器蓋碗で淹れるとさらりとした香味になる、って感じでしょうか。
B:うん、そんな感じ。安渓祥華鉄観音の場合、紫砂茶壷だと焙煎香が和らいで花香と旨味がバランス良く感じられるのに対し、磁器蓋碗だと特に一煎目は焙煎の香りが支配的になるかな。
A:黄金桂は、磁器蓋碗だと特徴である華やかな花香が立ち上がって、口中に爽やかな味わいが広がるけれど、紫砂茶壷ですと、その訴求が弱くなるような気がする。
B:黄金桂は好みによって蓋碗淹れと茶壷淹れはどちらもOKだと思う。けれど、今回の “中焙火”と言われる程よい焙煎と鉄観音品種ならではのしっかりした花香を併せ持つ鉄観音の場合、磁器蓋碗淹れの1煎目は焙香と品種個性が支配的になるため、うーん、ヨシヨシって思える香味に抽出するのは難しいでしょうね。
A:ものすごく粗いまとめ方になりますけれど、焙煎の度合いが軽めで、繊細な香味を持つお茶、茶水の色合いでいえば淡い系の茶葉は、紫砂茶壷で淹れると、そのニュアンスがやや削がれる恐れがあるかも。
B:それに対して、焙煎の度合いが強めで、いわゆるしっかりめの香味、となると茶水の色は濃い目の茶葉は、紫砂茶壷で淹れると、余計というかちょっと飛び出している感のある香味を程度に吸収して、バランスを整えて抽出してくれる感じがあるかな。
A:あ、今回は検証のために聞香杯と品茗杯を使っていますが、よく『聞香杯って無いとだめですか?』というご質問をいただくんですよね。
B:聞香杯はマストではないかと。これ、1980年代、飛躍的な経済成長を遂げた台湾で、人々の生活に余裕が出てきた一方、お茶の生産は烏龍茶に軸足を移しつつあって、より文化的に地元のお茶を楽しもうという機運の流れの中で生まれた茶器。なので、基本的には烏龍茶のように明確で持続性のある香りを持っているお茶に向いている、とは言えますよね。
A:確かに、緑茶のような繊細かつ短時間で揮発する香りが主体のお茶に使われているのは見たことがないかも。
B:だから全体の生産量とか消費を見れば緑茶主体の大陸では、あまり広がらなかったようですし、台湾でも最近、といっても10年は経っていると思うけど、烏龍茶と言えども使わない人が多いかも。
A:飲杯も茶水を飲みほした後に、それなりの香りが残ってますから、聞香杯と品茗杯をセットで揃えなくても、飲杯だけでも残り香が楽しめますよね。蓋碗と同シリーズの飲杯で揃えても、そうでなくても、組み合わせは自由に楽しめます。
A:本日のAとBのやりとり、お茶を淹れるに当たり、磁器蓋碗と紫砂茶壷の使い分けに悩んでいらっしゃる方に少しでもお役に立てば幸いです。淹れ方の詳細は最後に纏めておきますね。
<本日の検証時、淹れ方手順>
1)茶器の温め
2)茶葉投入して湯を注ぐ
3)茶壷は上からお湯を注ぐ
4)茶海に注ぎ出す
5)聞香杯に注ぐ
6)品茗杯からいただく
いかがだったでしょうか。これからも、うだうだ話にお付き合いくださいね。